(20) 出てしまった

 今月の「サライ」にお醤油の特集がありまして、トップが三つ星醤油です。

 元々紀州は醤油の発祥地、蘊蓄には限りが無いのですが、これは別格。恐れ多い逸品なんです。

 通販なんか絶対やらないところです。店頭に行っても、一種類の醤油とみそが赤と白、もろみ味噌、これだけ。店員なんか居ない(笑)

 声を張り上げて”こんにちは〜”と言うと、やっと家族の誰かが出てきます。

 湯浅町の「角長」はマスコミデビューがマメですが、こちらはじっとしたままでした。


 両方とも、昔のままの倉で、付近に行くとプ〜ンと醤油の良い香りがしています。近所一帯に香りが漂うメーカーって本当に少なくなりました。木の樽がホーローになり、ステンレスになり・・天井の梁からこぼれる菌が発酵を促すような工場は、保健所の天敵、ネズミの極楽みたいな物ですから・・・

 この三つ星醤油は戦後まだ幾ばくも無い頃、テレビはまだ無くてラジオの全盛時代、山本嘉次郎という映画監督のオジさんや石黒敬八などという人たちがおしゃべりで活躍していました。

 山本嘉次郎氏がグルメでありまして、ある時、日本一旨い”親子丼”を作ろうって(笑)チープな大企画。その時、名古屋のカシワと卵、そしてこの野村の醤油が紹介されました。

 私など、当時はご幼少の砌でございましたから、後年そのことを知った訳であります。


 最近、地元の自家用野菜を宅配する和尚イベントを続けていますが、この野村の醤油を、メンバーにお勧めしようかと思っていた矢先でした。(大丸や近鉄の食品売り場では手に入る所があります。)

 なんだかなあ、自分の子供が突然デビューしたみたいで、複雑な心境であります(笑)でも、今のシステムでは量産は利きませんしオーナーもしないと思いますから、まあ、質に関しては安心でしょう。

 で、お味は・・・実はあんまり普通すぎて、うっかりすると値打ちが判らない(笑)上善水の如しと言って、旨い酒ほど水の様になると言うような物で、京料理に”味が付いていない”などと思う輩には勿体ない。洗練の極みです。

 醤油の旨味を味わいたい向きには、サライでも紹介されていますが、角長の「濁り醤」(にごりびしお)。生の醤油ですから冷蔵庫に保管しなければならないのですが、これなら刺身にも煮物に使っても、本当の香りと味が濃厚に味わえます。・・貴方でも大丈夫(笑)

 実は「角長」さんは親しい方で、身内が勤めていた時期もありいつでも販売協力したいのですが、これも宣伝しないで売れていますし、積極的に拡販する余裕もありません。

 本来なら、醤油の製造は材料を仕込んで一年以上かかります。ところが、大メーカーでは2ヶ月程で出荷します。最近のバイオ技術というシロモノです。

 年に一回転しかさせられない小メーカーはどんどん潰れてしまいました。酒と同じです。この二つの倉の、角長の若旦那の仕事は来る日も来る日も釜の前で薪を焚くことです。養子で無ければ続かないって(笑)、老舗が続いて行くのは残酷なまでの忍耐を強いられる舞台裏があってのことです。

 次は「生ける神様」浜口吾兵衛の事でも書きましょう。ヤマサ、ヒゲタと言う2大ブランドのオーナー筋なんです。

 

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